我慢なので。懐古中年、Goes on!

無職を続ける、好き嫌いの激しい中年が、80’sアニメ、音楽、映画等、趣味を懐古しながら、日々の生活を節約し、我慢を続けて行くブログ。

映画「肉弾」です。

 みなさん、こんにちは。水の心です。今日は、映画「肉弾」です。

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1968年公開の岡本喜八監督の青春戦争映画です。

 主演は

士官候補生の「あいつ・ねずみ」に寺田農(てらだ みのり)氏。

女学生の「うさぎ」に大谷直子氏。

 

他には、

田中邦衛氏、中谷一郎氏、今福正雄氏、笠智衆氏、北林谷栄氏、春川ますみ氏、小沢昭一氏、菅井きん氏、高橋悦司氏、伊藤雄之助氏、仲代達也氏などなど、どこかで見た俳優が多く出てきます。

 

 寺田氏は、デビュー3年後のこの作品で、主演男優賞を受賞。

大谷氏は、この映画がデビュー作。若い両氏は、この映画がキッカケとなって、世に羽ばたいています。

 

 「日本の一番長い日」から、私は岡本監督作品を見始めました。なので、岡本作品でおなじみの俳優が出て来ると、これもまたその映画の魅力になります。また当然ですが、昭和の俳優が出るので、懐かしいアルバムを見ている気持ちにもなります。

 

そんな事もあり、未見だったこの「肉弾」を2015年に期待して観ました。

鑑賞一回目の感想は、多分、低予算だろう事や、ストーリー上の場面転換が早く、エピソードはブツ切りの積み重ねの様に見えました。

そんな中、特筆すべきは、寺田農氏の若々しくアッケラカンとした演技。

 

映画は、非常に心に残りましたが、とても難しい映画で、そのメッセージ等をつかむ事が出来ないまま、ブログに書けず仕舞いになっていました。

 

そして今年2016年。運良く再放送。

そこで、今回は場面場面を書き出し、理解するぞと観始めました。

 

 前半の学徒動員、予備士官学校でのエピソード。

そのリアリティから、これは候補生だった監督の実体験から来ている物だと思いました。

 

「軍隊組織の馬鹿馬鹿しさ」

 

懲罰で、全裸で訓練させられたり、食糧倉庫での副隊長とのトボけたやり取り。

つい最近まで学生だった身から見ると、なんと不思議な組織と映ったのだろうと思います。

 

そして、候補生から少尉任官し、飯もたらふく食べさせてもらい、これまた軍隊の不思議を、味わいます。

 

傍で見た「学校長閣下」の食糧とトラックの分捕り、横領を見て「大した事ではない」と、あきれとあきらめ、軍隊を皮肉ります。

 

 そんな主人公が行く先々で出会う市井の人達。

その善人さ、弱い立場から見た戦争、受けている苦労、世間の空気感等を、挟みこんでいきます。

 

そして、運命の「うさぎ」との出会いで「牛、馬、豚だった自分」から「人間の自分」を取り戻し、戦い死んでいく理由を見つける事が出来た。

 

「俺は、君(国民)を守る為に死ねるぞーッ!」

先立つ人が、これを言える事は、とても幸せな事だと思います。

 

 「・・・あっちこっちが狂い始めてる」

8年続く戦争により、軍隊は元より、民間も引きずられて、先鋭化。大人も子供も狂乱し、我を見失っています。

寺田農氏の演ずる「あいつ」は、半分学生、半分兵士なので、これらを両サイドから見て理解します。

 

「日本良い國 清い國 世界に一つの神の國

 日本良い國 強い國 世界に輝く偉い國」

 

途中から、街の人々は苦痛の表情が増えていきます。

制裁、迫りくる負け戦の噂、恐怖。

 

新兵器などでは無く、原始的な木箱に入った爆薬を持って、戦車特攻の訓練をする、痩せこけた「あいつ」

 

修身の教科書の文言は、戦争で疲弊していく登場人物たちと、ドンドン乖離し、浮き上がっていきます。

 

そうこうしているうちに、自分の愛していた「うさぎ」や、知り合った人々が、あっさり空襲で被災死。

 

「バカヤローッ!」

 

 「あいつ」は、同じ空襲で一人になってしまった小学生に

「勉強をしていれば、人間になれる。ワラジムシにはなりたくない!」

と伝えます。

勉強すれば、自分がそうなってしまった「豚や牛、虫」にならなくても済む。

馬鹿馬鹿しい訓練や、腹を空かせて、その理不尽さに苦しまなくても良い。

 

すなわち「勉強をする=世の真理を知り、知恵をつけ、自分で善悪を考える事」

それが「戦争をしなくて済む方法に繋がるのだ」と私は受け取りました。

 

 その後、海原で独りぼっちで、対敵艦用の魚雷がくっついたドラム缶の特攻兵器に乗る「あいつ」

オープニングのシーンに戻ります。

 

シーンが変わって、浜辺の小学生は、おばさんから終戦を伝えられ、ストーリ上も、映画は静かにクライマックスになる事を観客は知ります。

 

そして、魚雷を抱えたまま、救助のないドラム缶の中で「あいつ」は、果たして戦果を上がる事が出来たのか?そして、生きて帰れたのか?

 

 下士官役の高橋悦司氏のコップに浮かぶハエ、糞尿輸送船船長の伊藤雄之助氏に寄って、叩かれて殺されるハエ。

牛、豚、神様、ワラジ虫、最後の「あいつ」の姿の投影です。

 

観客は、それでも少しばかりのドンデン返しを期待しながら、何とか生きながらえたと、安堵するも「あいつ」は、酔っぱらったまま、東京湾の迷子に。

 

 それから、23年後。

浜辺は、若い男女が、水着で群れ遊んでいます。

その中に、大谷直子氏がビキニで写っていると思うのですが、どうでしょう?

 

そんな対比と共に、同じ太陽の下「あいつ」が、戻ってきます。

ドラム缶の中で、白骨となった「あいつ」が。

 

「終わった、戦争が終わった」

「うさぎさん(亡くなった国民)、日本が負けたんだって」

「バカヤローッ」

 

「うさぎのバカヤローッ」

十五夜のバカヤローッ」

「バッカヤローッ!」

 

  コミカルな雰囲気、柔らかな音楽でごまかされているけれど、劇中のセリフを字に起こすと、かなり強い力です。

 

「自分が軍隊で報われないバカヤロー!」

「狂っていく社会にバカヤロー!」

「繋がる人々を失うバカヤロー!」

「あまりに強大な敵にバカヤロー!」

「そして、どうにもならなかったバカヤロー!」という事なのです。

 

朽ちながらも、叫び続ける「あいつ」

高度経済成長、豊かさ、幸せの享受。

痩せこけ、そしてボロボロになってしまった「あいつ」は、未だ何処かで、叫び続けているのでしょう。

 

 そのストーリーは、学徒動員された学生の、特攻出撃までの一瞬の出来事です ラストシーンは、21.6歳の「あいつ」と、昭和43年の21.6歳の若者の姿を、残酷に比較して映し、メッセージを伝えようとしたと思います。そこが観ている者に、暗いトゲを残すのです。

 

もしかすると「あいつ」は岡本喜八監督本人だったのだろうか?と思います。

いろいろな、無念を「バッカヤローッ!」に込めて、死なせた。

「あの時の、あの日の自分」と、この映画で決別したのかも知れないと思いました。

 

なので、その衝撃のラストシーンと共に聞こえる「あいつ」の叫びは、監督の過去の自分との決別の叫びだった、のかも知れません。

そして、生き残った監督は勉強し、軍人と全く違う、文化人の映画監督になった、という事でしょうか。

 

そして、音楽は「佐藤勝氏」

戦争映画独特の、荘厳で暗い音楽では無く、

小さな幸せを紡いでいくような、安らかな気持ちになるテーマ曲です。とても印象的です。

 

 オマケで調べたところ、

劇中使用された、95式魚雷なのですが、当時、日本軍が使っていた酸素魚雷というのは、かなりの高性能であると、よく書物に出て来るのですが、実際、精緻な技術が組み込まれていました。

 

f:id:mizuno_cocoro:20160808215411j:plain<画像は酸素魚雷Wikipediaから>

弾頭部分は400㎏の爆薬入り。これだけでも威力大。

胴体中ほどに「純酸素」そして「石油燃料」が搭載されており、推進力が二重反転プロペラの為、2個搭載されたモーター(エンジン)で、純酸素と燃料を混合燃焼。

 

これからが一番の技術どころで、

「純酸素」を使用しているので、エンジンの排気ガスは、炭酸ガス(Co₂)だけ発生。

Co₂は海水に溶け込みやすいので、排気ガスの泡がブクブク泡立つことがなく、その為、敵が魚雷の「航跡」を発見する可能性が低い。

 

元来「純酸素」の充填で爆発等の危険があるこのメカを、実用運用出来たのが、日本軍の酸素魚雷だった、という事で、有名になったという事だそうです。

 

 また「あいつ」が乗り込んだ、ドラム缶付き魚雷特攻兵器は、私も初めて見るもので、ネットで探してみると、多分創作兵器だろうと結論づけられていました。もしかしたら、終戦間近、軍の中では、まことしやかにそういった運用が噂されていたのを、監督が取り上げたのかも知れません。

 

あとは、海上で掃射される米軍の単座戦闘機グラマンF6Fの機銃が、12.7㎜×6丁。

f:id:mizuno_cocoro:20160808215424j:plain<画像はM2 Browning Wikipediaから>

今も各国で使用されているブローニングM2機関銃です。戦後70年以上使用されている傑作兵器です。

(私も小学生の頃、自衛隊の祭りで、コッキングしたり、空撃ちしたりして遊んだ記憶があります)

 

航空機の搭載機銃では、一番バランスが良いと言われていて、弾頭の直進性がよく、弾薬のサイズが適度な大きさの為、弾薬積載量1丁400発と豊富。

有効射程2㎞の弾が毎分750~850発×6丁で、雨あられと発射されます。

 

そして、おばさんが暴発させた「あいつ」のリボルバー

どうも、幕末に輸入され国内に多く流通した、フランス製のルフォーショー・6連ピンファイヤ一・リボルバーぽいです。

f:id:mizuno_cocoro:20160808220107j:plain<画像はLefaucheux M1858 Wikipediaから>

ピンファイヤー式という、変わった形の薬莢を持つ弾薬を使った銃で、私は今回初めて知りました。また古式銃として現在も、国内で購入可能の様です。

f:id:mizuno_cocoro:20160808215456j:plain<画像はLefaucheux M1858 Wikipediaから>

 小学生役の雷門ケン坊氏が、おはじきにしている手榴弾は97式手榴弾

長さ直径は、98㍉×50㍉遅延時間は4~5秒。割と小さなもの。鉄兜で雷管を叩いて、撃発させ投げる、おなじみの物。ライフルグレネードの弾体として、小銃から打ち出す事も可能。

f:id:mizuno_cocoro:20160808215511j:plain<画像は97式手榴弾Wikipediaから>

 

 この作品は第23回毎日映画コンクールで多くの賞を受賞しており、地味ではあるし、若干難しいのですが、深い見ごたえはあると思います。

出来れば、21歳を中心に多くの若者たち、国民、そして混乱の時代に突入し、現在政治をつかさどる者達にも観てもらいたい作品だと思います。

それでは、次回の更新まで!